創作小説

小説を主に掲載していきます。

創作小説の新着ブログ記事

  • 回り道 その19

     拓海を送り出すと、智子は早速大介に連絡する。大介は仕事中。電話としては掛けられない。  智子は、Cメールで連絡を取る。 【拓海君が菜実さんに妊娠させた。どうしよう】  未だ確定では無いのに、衝撃的な内容である。  LINEでも良いのだが、そのLINEには結菜と大介しか登録していない。拓海には断ら... 続きをみる

  • 回り道 その18

     根草大介と沢登智子はもんじゃ焼き店に入る。 「食事に連れてってくれると言うからどんな食べ物屋に行くのかと思ったら、これなのね」  智子はもんじゃを頬張りながら言う。 「色々な食べ物を食べた方が良いんじゃ無いかって思ってね」 「う~ん? さては、結菜が大ちゃんに何か告げ口したな」 「告げ口なんて結... 続きをみる

  • 回り道 その17

     学校側が手を拱いているはずも無く、先生が拓海の父親に直接電話する。父・大介は帰宅すると烈火の如く彼を叱った。 だが、強く怒鳴りつけたのはこの時だけだった。  大介は父親なりに、自分が拓海の母親を追い出した事で、拓海に寂しい思いをさせた。その思いがあったので、あまり強硬な態度を続けられなかった。 ... 続きをみる

  • 回り道 その16

     青春  河(かわ)里(さと)菜(な)実(み)が根草家に訪れる一ヶ月ほど前。その頃、拓海と菜実は行動を共にすることが多かった。  バイト先が一緒と言う事も関係した。 「ねえ、明日私の所に来ない? 土曜だし、バイトも学校も休みだし」 「えっ、菜実さんの部屋に?」 「一緒にゲーム遣ろう。ゲーム好きでし... 続きをみる

  • 回り道 その15

     ベランダに立ち洗濯物を触りながら、智子の頭は忙しく回転する。 菜実の人物評価。二人の仲はどうなっているのか。今後どう応対すべきか。勝ち気ではあるが、その一方で世話好きでもある智子は、一人悩む。  ベランダで、天気のハッキリしない蒸し暑さの中、一人佇む智子。 「そうだ」  彼女はうっかりしていたこ... 続きをみる

  • 回り道 その14

     ドカドカと拓海がキッチンに現れた。 「連れて来たよ」 「良く来てくれたわね」  智子はご飯の盛り付けをしながら応え、後ろを振り返り、キッチン入り口に視線を向けた。  智子は、思わずご飯茶碗を落としそうになった。 「えっ! 女の子なの?」  拓海の後ろに隠れるようにして立っていたのは、紛れもなく女... 続きをみる

  • 回り道 その13

     結菜は話を続ける。 「私、この前、お母さんが付けているノートを見たの。そこには、細(こま)々(ごま)と料理に関して書いてあった。味については勿論、行った先の店のメニューとか店内の様子とか。スーパーの惣菜に付いてまで書いているのよ。それで、結菜がお母さんに聞いたの。そしたら、何れお店を持てたら良い... 続きをみる

  • 回り道 その12

     何はともあれ、根草家の共同生活は順調に船出する。それもこれも沢登智子のお陰と大介は奉る。  そして、その感謝の気持ちを示そうと、根草大介は彼女を食事に誘う。料理の得意な智子を招待するのだから、生半可な店では折り合いが付かない。  大介は、奮発して高給料理店に智子を連れて行く。  智子は、出される... 続きをみる

  • 回り道 その11

     船出  午後一時頃、拓海が昼食を食べにキッチンに2階の部屋から降りて来た。いつものサイクルだ。  智子は、既に料理をテーブルに並べている。 「あのさ、俺、来週からアルバイトするから」  食事をしながら拓海が言う。 「あら、そうなの。良い事じゃない。どういう所で働くの?」 「トンカツ屋」 「トンカ... 続きをみる

  • 回り道 その10

     拓海は学校に通うために毎日4時頃家を出る。智子は、軽い食事を用意する。大概パン食に合わせた一品を出すだけではあるが。  夕食というか夜食は学校でも食べられる。  平日はこの様な感じで過ぎて行く。拓海にとって顔を余り見たくない大介や結菜とはすれ違いの毎日。実に順調に同居生活は進む。  拓海は次第に... 続きをみる

  • 回り道 その9

     沢登智子は、大介の息子・拓海を部屋から出すことに成功した。最も、部屋に閉じ籠もっていたのは大介や智子が居た時だけ。  智子が来る前は、大介が会社に行った後、拓海は伸び伸びと過ごしていた。  入浴やシャワー浴びも自由勝手に出来るし、外出もしていた。  智子が成功したと言えるのは、家族とか身近な人の... 続きをみる

  • 回り道 その8

     週末、大介は智子を食事に誘った。 「いつも家事をしてくれて有り難う。お陰で、男所帯の陰鬱な雰囲気が消えて、明るくなった。それに、拓海を部屋から引き出してくれたし、智ちゃんには本当に感謝している。感謝しきれない位だ」 「そんなー。私はただ好きだから遣ってるだけ」 「いやいや。料理は絶品だし、俺は智... 続きをみる

  • 回り道 その7

     結菜は、トントンと階段を駆け上がり、拓海の部屋の前に立つ。 「拓海君。料理が出来上がったよ。一緒に食べよーォ」  返事が無い。 「今夜はね、お母さんが腕に縒(よ)りを掛けて、美味しい料理を一杯作ってくれたよ。本当に美味しいんだからね」  やはり、何の応答も無い。 「拓海君は、お母さんの料理が美味... 続きをみる

  • 回り道 その6

     拓海がキッチンテーブルの椅子に座る。そこで智子はハタと困る。 「拓海君ゴメン。時間がアレだから、未だお昼ご飯の用意、出来てないのよ」  年配になると「アレとかそれ」等の抽象的な言葉が増える。でも、さすが日本人の拓海。意味するところは分かっていた。 「別に何でも良いよ。俺、朝飯未だ食ってないから」... 続きをみる

  • 回り道 その5

     結菜の「拓海の部屋出し作戦」と名付けた作戦が動き出す。結菜が目出度く志望校に受かった後だった。 「拓海君。今日から少しの間、この家の家事手伝いをすることになった智子よ。もうこの件はお父さんから聞いているでしょ。宜しくね」  以前と同じく、拓海の部屋からは物音一つ聞こえない。 「それからね、叔母さ... 続きをみる

  • 回り道 その4

     引っ張りだし作戦開始  沢登智子が、根草拓海を部屋から出す為に2階に上がる。  智子が、2階の拓海の部屋に行く姿を見て、大介が結菜との会話に持っていく。 「高校の志望校は何処なの?」  結菜は志望校を上げる。それを聞いた大介は喜ぶ。 「その高校、ウチからの方が近いかも知れないね。乗り換え一回挟む... 続きをみる

  • 回り道 その3

     後日、智子から連絡があった。気乗りしないが遣ってみると答えた。大介の息子・拓海を部屋から引っ張り出す作戦である。 「やったぜ。先ずは切っ掛けを作れた。しかしこの電話番号、変わって無いじゃないか。智子め、俺と近づくのが嫌だったという事か」  智子に嫌われては居ないようだが、避けられているのは確かな... 続きをみる

  • 回り道 その2

     智子が、結婚したと聞いた時には、正直大介はちょっとショックだったし残念に思う。とは言え、間もなく遠くに引っ越したので、暫し彼女の事は忘れていた。  この法事で、暫くぶりに再開した智子に、彼は今、ある考えが芽生える。   根草大介は沢登智子に携帯番号を聞こうとする。 「これ、俺の名刺。裏にスマホ番... 続きをみる

  • 回り道 その1

     「回り道」  大介筋書きを練る 「やあ、久しぶり。元気そうだね」  根草大介はいとこの沢登智子に話し掛ける。 「うん。貴方もね。所で名前、何て言ったっけ?」 「大介」 「そうそう、大ちゃんだった」  智子は、愛想笑いを浮かべ応える。 「旦那さんの葬儀に行けなくてゴメンね」  二年ほど前に、智子の... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅲー5 恋の季節 2

     保(やす)来(き)信(しん)次(じ)郎(ろう)が久しぶりに旅館に戻る。 「和ちゃん、色々あって大変だったね」 「うん、大丈夫。先週、父が亡くなったってメールがあったの」 「それは何と言って良いか・・・。折角会えたのに、悔やまれるね」 「いいの。でも、やはり生きている内に父に会えて良かったと思う。... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅲー4 恋の季節 1

     恋の季節  保来探偵事務所は今日も平穏安泰だ。もっとも、仕事が来ないのだから波風が立つわけが無い。  もはやこの会社は、税金対策の為に存在していると言っても過言では無い。  そんな中、アパート経営は順調だった。  暇な癖に、1階の事務所タイプの部屋を陣取っていた事務所。それがん2階のワンルームへ... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅲ-3 実父 3

     健一は、当時を回想するように弱い声で話す。 「俺が気が短く短気だっただけに、敏子達に迷惑を掛けてしまった。申し訳なく思っている」  和枝は何も言えなくなった。彼女のイメージしていた父親と違っていたからだ。 (若しかしたら、私があなたの子供だと気付いているのでは?)  そう思えてくる。  その時、... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅲ-2 実父 2

     父親だという男の名前は鈴木健一。健一と和枝の母・敏子は、同じ旅館で働いていた時に深い関係になった。  妊娠したのを知り、敏子が健一に伝えようとした直前、調理人だった健一が料理長と刃物沙汰となり、彼はその日のうちに姿をくらましてしまった。  料理長に深手を負わせただけに逃げるのに一生懸命で、彼は敏... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅲ-1 実父 1

    ホラ探偵のらりくらり日記Ⅲ  実父  保来孝太郎、平原幸恵コンピも北海道の牧場に戻った。  再び、アパート3階の信次郎の家は静かになった。何だかんだと言っても、誰も居なくなると寂しい。  父・孝太郎は置き土産に、「ほら探偵信次郎」の名刺を知人などに置いて来たと言った。  とは言え、調査依頼なんてそ... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱ最終章 秘密の調査 3

     保来孝太郎は、書類などを入れる大きな茶色の封筒、保存袋を木村和枝に渡す。 「その中に、和ちゃんのお父さんの調査結果が入っている。住所も、家族構成も。そして、今入院している病院も記述してある。残念ながら、直接会っていないので写真は得られなかった。目を通すのも嫌なら、捨てるなり燃やすなりしなさい」 ... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー45 秘密の調査 2

     父・孝太郎が戻ってから数日経った。 「わし等、旅館の方に行くから」  孝太郎は信次郎に突然告げる。信次郎は、いよいよ決着しに行くのかと胸が騒ぐ。  孝太郎と幸恵が実家の旅館に着くと、真っ先に娘の彩音が出迎えた。木村和枝も現れる。  いよいよ波乱が始まる。二人は和枝に案内され、女将・ユキの待つ部屋... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー44 秘密の調査 1

     秘密の調査 「今日は、父さん一人で調査なの?」  調査は、殆ど孝太郎と幸恵のペアで行っていた。息がピッタリで仕事が捗(はかど)るのか、二人は常に一緒に動いていた。 「何か大切な調査をしているらしく、私にも内容が分からないのよ。調査が完了するまで2~3日泊まってくるって」  信次郎は、父の調査に興... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー43 新たなコンビ 4

     父の孝太郎は上京間もなく、既に色々動いていた。幸恵の東京見物と説明していたが、実は一緒に何かを調査していた。  そんな父の行動を、保来は不思議に思う。 「父さん、一体何を調査してるんだ? まさか、「繭の館事件」の桜谷貴子を調査しているのか?」 「まあな」 「あの人と直接会ったけど、もういい歳だよ... 続きをみる

  • ほら探偵のらりくらり日記Ⅱー42 新たなコンビ 3

     信次郎は将来に不安を覚えた。木村和枝の居ない探偵社なんて有り得ない。  信次郎の心を見透かす様に、孝太郎が言う。 「お前が探偵業を遣らない積りなら、あの事務所を引き払え。誰かに貸した方が遙に儲かる」 「俺に、探偵業を辞めろと言うのか?」  信次郎が反発する。 「辞めたければ辞めれば良いが、俺は辞... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー41 新たなコンビ 2

     一ヶ月ほど経過する。 「信ちゃん。私、旅館の方に帰る事になったから」  木村和枝が信次郎に伝える。  和枝は一ヶ月か二ヶ月おきに旅館に行っていた。アパートの管理状況とか、殆ど収入は無いが、保来探偵社の状況報告も兼ねて。  それは、旅館の女将であるユキの命令とも言うべき指示だった。  ルーティーン... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー40 新たなコンビ 1

     新たなコンビ  信次郎は、二人を自分たちが住んでいる3階の部屋に連れて行く。 「おお、外から見たよりも広く感じるな。部屋は幾つあるんだ?」 「5部屋。リビングに水回り。トイレは2カ所。お客さんも泊まれるようにしてある」 「ユキの指図か?」 「母さんや、東京見物したいという仲居さん達が何時でも泊ま... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー39 わだかまり 3

     今まで、信次郎に和枝との結婚をせっつく人は何人も居た。両親もそうだし、探偵業で知り合った岩田も安藤絵美子もそうだった。  口汚い刑事の浅羽は、 「和枝さんを生殺しにするのか」  とまで言い放った。だから、信次郎は浅羽を毛嫌いしている。  最近では、妹の彩音にまで、 「和枝さんは兄さんを待ってるの... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱ-38 わだかまり 2

     保来家は山間から離れた中核都市に別宅を持っていた。その家に、ユキに女将の座を譲って引退した祖母が一人で暮らしていた。  やはり街の方が買い物も病院に行くのも便利だからである。  保来信次郎は、進学するに当たってその街にある高校を選んだ。高校生活は祖母と一緒に始まった。  若者が遊ぶ物など無かった... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー37 わだかまり 1

     わだかまり  信次郎は一人自宅で退屈な日々を過ごす。案の定、探偵社は閉めてる。 《只今遠地に調査作業に出向いていますので、暫くの間、保来探偵社事務所を閉めさせて頂きます》  そんなような内容を、留守番メッセージに残す。 「この際だ、海外旅行にでも行ってこようかな」  そう思ったが、旅慣れない海外... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー36 初対面 3

     普段の信次郎なら、部屋に入るなりドカッと座り胡座を掻くのだが、今回は母・ユキと彩音との対面がどんな展開になるのか心配で、座る気になれず立ち尽くしたままだった。  そう、いざとなったら彩音と共に部屋から逃げ去る準備をしていたのだ。 「貴方のお父さん、元気なの?」  ユキの夫である孝太郎を、貴方のお... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー35 初対面 2

     保来信次郎は、ハンドルを握りながらも、彩音と母・ユキの顔合わせを心配して気持ちが落ち着かない。 「彩音が母さんに酷い目に遭わなかったとしても、親父の件はどうするんだ。彩音に説明させるのか?」 「そうね。どうなのかしら?」 「オイオイ。無責任だぞ、和ちゃん」 「そうなったら、信ちゃんの得意の話術で... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー34 初対面 1

     初対面  保来探偵事務所は今日も暇である。本当にいつも暇なのである。平原彩音もこの状況にもう慣れた。 「丸畑さんの調査は、彩音も頑張ったらしいじゃないか」  母親の違う妹と分かってからは、信次郎は彩音の名を呼び捨てにしている。 「和ちゃんが褒めてたぞ。演技力が良いって。結実子さんの写真まで撮った... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー33 恋慕の果てに 4

     保来信次郎は、調査報告書を丸畑に渡さず、おもむろにページをめくる。 「結実子さんは、埼玉の地方都市で建築業をしている人と結婚しています」 「そいつは、いや、その人は歌手の卵だったと言う奴じゃないだろうね」  丸畑は、保来の話をぶった切って入って来た。 「先ず、違うでしょ。旦那という人は当時、建築... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー32 恋慕の果てに 3

     10時を回った頃、和枝はフロントに向かった。 「女将さんに伺いたいことがあるのですけど、お時間頂ければ有り難いのですが」  年老いた受付の男性は、女将を呼びに行ってくれた。 「どんなご用でしょうか?」  50代くらいの女性だ。 「こちらに、由井結実子さんと仰る女性が居ると聞いて伺ったのですか?」... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー31 恋慕の果てに 2

     帰りもまた、渋滞に嵌まった。ノロノロ運転していると後ろの車がクラクションを鳴らして来た。ルームバックミラーで確認するも、一度は無視する。しかし、何度も鳴らすので、顔を出し後方に目を向ける。  すると、後車の運転手が腕を出し、彼の車のタイヤを指差している。  砂利を引き詰められた畦道に嵌まり動けな... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱ-30 恋慕の果てに 1

     恋慕の果てに  ここまで聞いた保来信次郎は、丸畑の最初に語った内容とは随分違うと思う。これは、大恋愛でなく、大片思いだ。それも、保来の感じる所では、由井結実子なる女性は丸畑を、殆ど眼中に置いてない雰囲気だ。  第二候補、第三候補であろうと、そんな男達に多少なりとも好意を持っているのなら、 「大好... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱ-29 信次郎珍しく動く 2

    【いやー、昨夜は下書き段階で終わりにしてしまった。頭の中はてっきり正式投稿したものと思っていたが、なんだろう。年の所為か?】  社会人となった丸畑は中堅クラスの会社に入る。その会社は支店が沢山あり、その支店の一つで営業業務に就く。  事務志望だったが、新人教育の一環として、営業を遣らされる。その支... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー28 信次郎珍しく動く 1

     宮下は、刑事という仕事が邪魔してか、なかなか彼女が出来なかった。いま、偶然にも彩音と知り合った。そして、彼は彩音に一目惚れのような感情を持つ。  また彩音も、上京してこの方、同年代の若者と触れ合う機会が無かった。彩音もまた、誠実そうな宮下に親しみを抱く。  とは言え、警察と利害関係が微妙に重なる... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー27 恋? 1

    恋?  相変わらず暇な保来探偵社。そこに一人の青年が訪れた。 「保来社長は居ますか?」 結構軽い雰囲気で事務所に入って来た。 「今、用があって席を離れていますが」  平河美咲が応対する。 「また、何時ものサボりですか」  随分と馴れ馴れしい砕けた言い方だ。 「保来に、どんなご用件で?」  彩音が、... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー26 新たな頭痛 2

     実のところ、木村和枝が結婚したかどうかは微妙で、事実かどうかも分からない。和枝を知る多くの人達は、彼女が信次郎の見合い話を聞き、自ら身を引いたのではないかと見ていた。  当時、孝太郎を手伝って保来興信所の仕事を支えていた彼女が、唐突に「結婚するので」と一言残し辞めて去ったのは、信次郎や彼の母・ユ... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱ-25 新たな頭痛 1

      降って湧いた妹   この様な内容を話し終えるのに5時間ぐらい要した。何故か? 彩音の話があちこち飛びまくるからだ。  同級生の誰々ちゃんは性格が悪いとか、集配に来る運転手は小屋の後ろで何時もオシッコしていくだとか、家畜との出来事とか、本筋から外れる話が余りに多い。  保来信次郎は、そんな彩音に... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱ-24 巡り合わせ7

     彩音は高校を卒業して少しの間、牧場の仕事を手伝っていた。19歳に成る迄は牧場の仕事を手伝うと、母・幸恵と約束したからだ。  幸恵自身もやはり、両親から20歳になるまで東京行きを許されなかった。  もう一つ、牧場の仕事を覚えさせたなら、上京して何かあったら、その仕事を懐かしく思うかも知れないとの含... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー23 巡り合わせ 6

     娘の彩音が父・孝太郎を待ち構える。 「どうだったの?」 「どうだったって聞かれてもな。確かに、週刊誌に載ったのは息子の信次郎だったよ」 「それで、会って何話して来たの? 何か言われた?」  彩音にしてみれば、二十年間弱も音沙汰無しの父親が突然現れたのだから、特別な会話が有ったのではと思うのだ。 ... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー22 巡り合わせ 5

     白髪の混ざった口髭と顎髭。目には老眼鏡。深く被ったハンチング帽子からはグレーの髪の毛が覗く。保来孝太郎である。  その風貌は、彼が失踪した時とは大きく変わっていた。彼を一目で孝太郎と見抜く者は、恐らく誰一人居なかったであろう。信次郎やその家族さえもである。  孝太郎も、自分であると見抜かれぬよう... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱ-21 巡り合わせ 4

     この幽霊屋敷は埼玉県の或る町にある。東京では無いが、彼女達にとってはそこは大都市圏内なので、東京と称しても大きな抵抗は無い。  東京ディズニーランは、実際は浦安にあるが、冠に東京と付いていても文句を言う人は殆ど居ないのと同じだ。  平河彩音も、誰かが持参した記事の乗っているその週刊誌を読んだ。彩... 続きをみる

  • ほら探日記22 PCの中の二人 その1

      PCの中の二人  或る日、浅羽刑事から電話が掛かって来た。彼とは、職業上で幾度か関わっているので当然顔見知りではある。ただ、仕事とは関係なく木村和枝に言い寄る浅羽を、保来は毛嫌いしていた。 「至急、動いて欲しいんだけど、あんたなら何時でもオーケーだろう」  失礼な物言いである。まるで保来信次郎... 続きをみる