ほら探日記Ⅱー35 初対面 2
保来信次郎は、ハンドルを握りながらも、彩音と母・ユキの顔合わせを心配して気持ちが落ち着かない。
「彩音が母さんに酷い目に遭わなかったとしても、親父の件はどうするんだ。彩音に説明させるのか?」
「そうね。どうなのかしら?」
「オイオイ。無責任だぞ、和ちゃん」
「そうなったら、信ちゃんの得意の話術で上手く立ち回ってね」
「バカ言うな。俺は、母さんは苦手だ」
「だったら、未だ旅館に着くまで時間があるから、的確な対応方法を練って置いて」
木村和枝は、しゃあしゃあと言いのける。実に冷たい態度だ。
保来は不思議に思う。
今までの和枝なら、様々な場面で常にサポートに入ってくれていた。なのに、和枝自身がユキとの対面を提案してきたのに、間に入ろうとしない。
和枝も所詮女性。保来孝太郎の不倫というかそれに対して、ユキへの同情があるのだろうか?
信次郎は、不安が募り緊張してくるのを感じた。いざという時に、男は意気地が無くなる場合もある。
「お帰りなさい」
保来信次郎の姿を見ると、旅館の従業員達は挨拶する。
「ただいま」
信次郎と和枝は一人一人に挨拶を返す。従業員達は後ろについて歩く女性に目が行く。平原彩音は会釈で返す。
「母さんは何処かな?」
「帳場にいらっしゃると思いますが、若しかしたら部屋に戻って休んでいるのかも知れませんね」
3人は、女将のユキが休む部屋に向かう。
「只今戻りました」
和枝が先頭を切って部屋に入る。
「ご苦労様」
ユキは、後から入る信次郎と彩音に鋭い視線を送る。
「今、探偵社で働いて貰っている彩音さんです」
和枝は彩音に自己紹介を促す。
「初めまして。平原彩音と申します」
「・・・・」
ユキは何も言わずに、彩音をつま先から頭の天辺まで見回す。ユキは視線を変えると和枝に労いの言葉を言う。
まるで、彩音を無視するかに見える。
ユキは和枝に、
「温泉に入って疲れを落としなさい。今なら、未だお客さんが居ないからゆっくり出来るわよ」
和枝は「はい」と答え、信次郎と彩音を置いたまま部屋を去った。
(オイオイ、行っちゃうのかよ?)
信次郎が心の中で叫ぶ。
「歳は幾つ?」
ユキが彩音に問う。
「十九歳です。もう少しで二十歳に成ります」
ユキは思いだしたように、彩音に座るように勧める。
「チャンと正座が出来るのね」
キチンと正座した彩音を見て言う。返す言葉で、
「あんたもボサーッと立ってないで、座りなさいよ」
鬱陶しいとばかりに、ユキは信次郎に促す。
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