ほら探日記Ⅱー34 初対面 1
初対面
保来探偵事務所は今日も暇である。本当にいつも暇なのである。平原彩音もこの状況にもう慣れた。
「丸畑さんの調査は、彩音も頑張ったらしいじゃないか」
母親の違う妹と分かってからは、信次郎は彩音の名を呼び捨てにしている。
「和ちゃんが褒めてたぞ。演技力が良いって。結実子さんの写真まで撮ったんだもん」
彩音が余りに退屈しているので、保来が声を掛けたのだ。
「一応、和枝主任に予め言われていたからね。静の主任、動の私。役割分担決められていたから。怪しまれない程度に色々見たり探りを入れて欲しいと」
「そうか。でもな、言われたからと言って簡単に出来る物では無い。親父の血を引いてるのかな?」
「そうかもね。私、お父さんの自慢話を散々聞かされてたから。少しは役に立っているのかも知れないな」
「親父は、北海道で元気に暮らしているのか?」
「空が大きく、雄大な景色が広がっているので、とても開放感を感じて心が豊かになるって、よく言ってた」
「確かに、実家の空は山に囲まれて狭かったもんな。東京も建物が邪魔してるし、余り空を眺める余裕も無かっただろうからな」
二人が時間を持て余している所に、木村和枝が事務所に現れた。
「彩音さんは温泉が好きみたいね」
「はい。大好きです。肌がツルツルになるので」
「そう。じゃあ、もっと美人になる温泉に行ってみない?」
「はい、大賛成です」
すると、
「また温泉旅行かよ。味を占めたのか? 自分達のお金で行けよな」
と、保来は不満そうに口を挟む。
「大丈夫。無(た)料(だ)の所だから」
「無料の所? この間の温泉宿で無料券貰ったのか?」
「まさか。そんなサービスしたら、倒産しちゃうでしょ」
「じゃあ、何処?」
「お母さんのところ」
「えっ! 俺の実家? そりゃー不味いよ。絶対に駄目だ」
「何故? 彩音さんが此処で働いているのを、何時までも内緒にしておけないでしょ。何れ分かるのだから、こういうのは早めに会って貰った方が良いのよ」
「彩音を会わしたら、お袋が何て言うか」
「大丈夫でしょう。お母さんは心の広い人ですから」
「分からんぞ。いきなりスリッパを投げ付け、彩音に帰れって怒鳴り散らすかも知れないじゃないか」
和枝は、口をあけて大笑いする。
「信ちゃんはお母さんの子供でしょ。一度でも、お母さんがキレて大騒ぎしたのを見た?少なくとも私は無いわよ」
「俺も見たこと無いけど。でも、今回は事情が事情だから分からないぞ。心配だから、俺も一緒に行くよ」
結局、彩音も覚悟を決め、三人で実家の旅館に帰ることになった。
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