創作小説

小説を主に掲載していきます。

2022年3月のブログ記事

  • 回り道 その8

     週末、大介は智子を食事に誘った。 「いつも家事をしてくれて有り難う。お陰で、男所帯の陰鬱な雰囲気が消えて、明るくなった。それに、拓海を部屋から引き出してくれたし、智ちゃんには本当に感謝している。感謝しきれない位だ」 「そんなー。私はただ好きだから遣ってるだけ」 「いやいや。料理は絶品だし、俺は智... 続きをみる

  • 回り道 その7

     結菜は、トントンと階段を駆け上がり、拓海の部屋の前に立つ。 「拓海君。料理が出来上がったよ。一緒に食べよーォ」  返事が無い。 「今夜はね、お母さんが腕に縒(よ)りを掛けて、美味しい料理を一杯作ってくれたよ。本当に美味しいんだからね」  やはり、何の応答も無い。 「拓海君は、お母さんの料理が美味... 続きをみる

  • 回り道 その6

     拓海がキッチンテーブルの椅子に座る。そこで智子はハタと困る。 「拓海君ゴメン。時間がアレだから、未だお昼ご飯の用意、出来てないのよ」  年配になると「アレとかそれ」等の抽象的な言葉が増える。でも、さすが日本人の拓海。意味するところは分かっていた。 「別に何でも良いよ。俺、朝飯未だ食ってないから」... 続きをみる

  • 回り道 その5

     結菜の「拓海の部屋出し作戦」と名付けた作戦が動き出す。結菜が目出度く志望校に受かった後だった。 「拓海君。今日から少しの間、この家の家事手伝いをすることになった智子よ。もうこの件はお父さんから聞いているでしょ。宜しくね」  以前と同じく、拓海の部屋からは物音一つ聞こえない。 「それからね、叔母さ... 続きをみる

  • 回り道 その4

     引っ張りだし作戦開始  沢登智子が、根草拓海を部屋から出す為に2階に上がる。  智子が、2階の拓海の部屋に行く姿を見て、大介が結菜との会話に持っていく。 「高校の志望校は何処なの?」  結菜は志望校を上げる。それを聞いた大介は喜ぶ。 「その高校、ウチからの方が近いかも知れないね。乗り換え一回挟む... 続きをみる

  • 回り道 その3

     後日、智子から連絡があった。気乗りしないが遣ってみると答えた。大介の息子・拓海を部屋から引っ張り出す作戦である。 「やったぜ。先ずは切っ掛けを作れた。しかしこの電話番号、変わって無いじゃないか。智子め、俺と近づくのが嫌だったという事か」  智子に嫌われては居ないようだが、避けられているのは確かな... 続きをみる

  • 回り道 その2

     智子が、結婚したと聞いた時には、正直大介はちょっとショックだったし残念に思う。とは言え、間もなく遠くに引っ越したので、暫し彼女の事は忘れていた。  この法事で、暫くぶりに再開した智子に、彼は今、ある考えが芽生える。   根草大介は沢登智子に携帯番号を聞こうとする。 「これ、俺の名刺。裏にスマホ番... 続きをみる

  • 回り道 その1

     「回り道」  大介筋書きを練る 「やあ、久しぶり。元気そうだね」  根草大介はいとこの沢登智子に話し掛ける。 「うん。貴方もね。所で名前、何て言ったっけ?」 「大介」 「そうそう、大ちゃんだった」  智子は、愛想笑いを浮かべ応える。 「旦那さんの葬儀に行けなくてゴメンね」  二年ほど前に、智子の... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅲー5 恋の季節 2

     保(やす)来(き)信(しん)次(じ)郎(ろう)が久しぶりに旅館に戻る。 「和ちゃん、色々あって大変だったね」 「うん、大丈夫。先週、父が亡くなったってメールがあったの」 「それは何と言って良いか・・・。折角会えたのに、悔やまれるね」 「いいの。でも、やはり生きている内に父に会えて良かったと思う。... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅲー4 恋の季節 1

     恋の季節  保来探偵事務所は今日も平穏安泰だ。もっとも、仕事が来ないのだから波風が立つわけが無い。  もはやこの会社は、税金対策の為に存在していると言っても過言では無い。  そんな中、アパート経営は順調だった。  暇な癖に、1階の事務所タイプの部屋を陣取っていた事務所。それがん2階のワンルームへ... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅲ-3 実父 3

     健一は、当時を回想するように弱い声で話す。 「俺が気が短く短気だっただけに、敏子達に迷惑を掛けてしまった。申し訳なく思っている」  和枝は何も言えなくなった。彼女のイメージしていた父親と違っていたからだ。 (若しかしたら、私があなたの子供だと気付いているのでは?)  そう思えてくる。  その時、... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅲ-2 実父 2

     父親だという男の名前は鈴木健一。健一と和枝の母・敏子は、同じ旅館で働いていた時に深い関係になった。  妊娠したのを知り、敏子が健一に伝えようとした直前、調理人だった健一が料理長と刃物沙汰となり、彼はその日のうちに姿をくらましてしまった。  料理長に深手を負わせただけに逃げるのに一生懸命で、彼は敏... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅲ-1 実父 1

    ホラ探偵のらりくらり日記Ⅲ  実父  保来孝太郎、平原幸恵コンピも北海道の牧場に戻った。  再び、アパート3階の信次郎の家は静かになった。何だかんだと言っても、誰も居なくなると寂しい。  父・孝太郎は置き土産に、「ほら探偵信次郎」の名刺を知人などに置いて来たと言った。  とは言え、調査依頼なんてそ... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱ最終章 秘密の調査 3

     保来孝太郎は、書類などを入れる大きな茶色の封筒、保存袋を木村和枝に渡す。 「その中に、和ちゃんのお父さんの調査結果が入っている。住所も、家族構成も。そして、今入院している病院も記述してある。残念ながら、直接会っていないので写真は得られなかった。目を通すのも嫌なら、捨てるなり燃やすなりしなさい」 ... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー45 秘密の調査 2

     父・孝太郎が戻ってから数日経った。 「わし等、旅館の方に行くから」  孝太郎は信次郎に突然告げる。信次郎は、いよいよ決着しに行くのかと胸が騒ぐ。  孝太郎と幸恵が実家の旅館に着くと、真っ先に娘の彩音が出迎えた。木村和枝も現れる。  いよいよ波乱が始まる。二人は和枝に案内され、女将・ユキの待つ部屋... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー44 秘密の調査 1

     秘密の調査 「今日は、父さん一人で調査なの?」  調査は、殆ど孝太郎と幸恵のペアで行っていた。息がピッタリで仕事が捗(はかど)るのか、二人は常に一緒に動いていた。 「何か大切な調査をしているらしく、私にも内容が分からないのよ。調査が完了するまで2~3日泊まってくるって」  信次郎は、父の調査に興... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー43 新たなコンビ 4

     父の孝太郎は上京間もなく、既に色々動いていた。幸恵の東京見物と説明していたが、実は一緒に何かを調査していた。  そんな父の行動を、保来は不思議に思う。 「父さん、一体何を調査してるんだ? まさか、「繭の館事件」の桜谷貴子を調査しているのか?」 「まあな」 「あの人と直接会ったけど、もういい歳だよ... 続きをみる

  • ほら探偵のらりくらり日記Ⅱー42 新たなコンビ 3

     信次郎は将来に不安を覚えた。木村和枝の居ない探偵社なんて有り得ない。  信次郎の心を見透かす様に、孝太郎が言う。 「お前が探偵業を遣らない積りなら、あの事務所を引き払え。誰かに貸した方が遙に儲かる」 「俺に、探偵業を辞めろと言うのか?」  信次郎が反発する。 「辞めたければ辞めれば良いが、俺は辞... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー41 新たなコンビ 2

     一ヶ月ほど経過する。 「信ちゃん。私、旅館の方に帰る事になったから」  木村和枝が信次郎に伝える。  和枝は一ヶ月か二ヶ月おきに旅館に行っていた。アパートの管理状況とか、殆ど収入は無いが、保来探偵社の状況報告も兼ねて。  それは、旅館の女将であるユキの命令とも言うべき指示だった。  ルーティーン... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー40 新たなコンビ 1

     新たなコンビ  信次郎は、二人を自分たちが住んでいる3階の部屋に連れて行く。 「おお、外から見たよりも広く感じるな。部屋は幾つあるんだ?」 「5部屋。リビングに水回り。トイレは2カ所。お客さんも泊まれるようにしてある」 「ユキの指図か?」 「母さんや、東京見物したいという仲居さん達が何時でも泊ま... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー39 わだかまり 3

     今まで、信次郎に和枝との結婚をせっつく人は何人も居た。両親もそうだし、探偵業で知り合った岩田も安藤絵美子もそうだった。  口汚い刑事の浅羽は、 「和枝さんを生殺しにするのか」  とまで言い放った。だから、信次郎は浅羽を毛嫌いしている。  最近では、妹の彩音にまで、 「和枝さんは兄さんを待ってるの... 続きをみる