創作小説

小説を主に掲載していきます。

ほら探日記Ⅲ-3 実父 3

 健一は、当時を回想するように弱い声で話す。
「俺が気が短く短気だっただけに、敏子達に迷惑を掛けてしまった。申し訳なく思っている」
 和枝は何も言えなくなった。彼女のイメージしていた父親と違っていたからだ。


(若しかしたら、私があなたの子供だと気付いているのでは?)
 そう思えてくる。


 その時、看護師が検温のために病室に入ってきた。
「私、お花を花瓶に生けてきます」
和枝は、ともかくも病室から抜け出したかった。一度、気持ちの整理がしたかったのだ。


 すると、
「あなたのお名前は?」
 健一が、ベッドから離れようとする和枝を引き留めるように言う。
「和枝です・・・」
「名字は木村ですね。木村和枝さんですね?」
「はい・・・」
 健一は、和枝が敏子の娘だと踏んでいる。


「間違っていたらご免なさいね。和枝さんは若しかして私の娘ではないですか?」
 やはり健一は、察していた。
「どうしてそう思うのですか?」


「正直言って、自分は傷害行為を起こしたばかりに、警察から逃げ回った。時効が過ぎてから、敏子を探して歩いた。あの旅館に行って直接聞くわけに行かないので詳しく知ることは出来なかった。だが、敏子が妊娠して旅館を追い出されたのを風の便りで聞いた。だけど、その後を追いかけるのは自分には不可能だった」


 健一は母をボロ雑巾の様に捨てたのでは無かった。彼なりに一生懸命探していた。しかも、不確かではあるが、和枝の存在も耳にしていた。


「お母さんは? 元気で居るのか?」
「私が幼い頃に病気で亡くなりました」
 和枝は涙ぐんでいた。
「そうだったのか。済まなかった」 
健一も瞳を潤ましていた。


 そこに看護師が現れ、健一の検温順番となった。看護師が去ると、健一は和枝の生活状況を尋ねる。
 和枝は、保来家に拾われ、今は幸せに暮らして居ると答えた。
「そうか。私を探し出してくれた人が、あなたの恩人の保来さんだったのか。保来さん一家には、感謝しても仕切れないくらい有り難い」


 本当は、和枝との関係がハッキリした以上、健一には「あなた」というより「和枝」と呼んで欲しかった。


 健一は更に、
「あの世で敏子に会えたらなら、俺たちの娘は幸せに暮らして居ると報告するよ。
喜ぶだろうなー。おっと、その前に敏子に跪いて謝らなければな」


 木村和枝はナースセンターに寄る。
「お願いしたい事があるんですが・・・」
「はい。どんな御用ですか?」
 先程検温に来た看護師だった。


「鈴木健一さんの事ですが、悲しいことですがもう永く無いと伺っています。色々事情があり、私はもう来られません。お手数を掛けますが、もしお亡くなりになった場合、日時だけで良いですので、私宛にメール頂ければ。お願い出来るでしょうか?」
 和枝は用意して来た、自身のメールアドレスを記したメモを差し出す。


「家族以外の方の場合、そのような用件は受けられません。ですが、あなたと鈴木さんの会話が耳に入ってしまいました。鈴木さんの娘さんだったのですね」
 看護師は、病院としては受け付けられないが、彼女が個人的にメールを送ってくれると約束してくれた。