創作小説

小説を主に掲載していきます。

2022年2月のブログ記事

  • ほら探日記Ⅱ-38 わだかまり 2

     保来家は山間から離れた中核都市に別宅を持っていた。その家に、ユキに女将の座を譲って引退した祖母が一人で暮らしていた。  やはり街の方が買い物も病院に行くのも便利だからである。  保来信次郎は、進学するに当たってその街にある高校を選んだ。高校生活は祖母と一緒に始まった。  若者が遊ぶ物など無かった... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー37 わだかまり 1

     わだかまり  信次郎は一人自宅で退屈な日々を過ごす。案の定、探偵社は閉めてる。 《只今遠地に調査作業に出向いていますので、暫くの間、保来探偵社事務所を閉めさせて頂きます》  そんなような内容を、留守番メッセージに残す。 「この際だ、海外旅行にでも行ってこようかな」  そう思ったが、旅慣れない海外... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー36 初対面 3

     普段の信次郎なら、部屋に入るなりドカッと座り胡座を掻くのだが、今回は母・ユキと彩音との対面がどんな展開になるのか心配で、座る気になれず立ち尽くしたままだった。  そう、いざとなったら彩音と共に部屋から逃げ去る準備をしていたのだ。 「貴方のお父さん、元気なの?」  ユキの夫である孝太郎を、貴方のお... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー35 初対面 2

     保来信次郎は、ハンドルを握りながらも、彩音と母・ユキの顔合わせを心配して気持ちが落ち着かない。 「彩音が母さんに酷い目に遭わなかったとしても、親父の件はどうするんだ。彩音に説明させるのか?」 「そうね。どうなのかしら?」 「オイオイ。無責任だぞ、和ちゃん」 「そうなったら、信ちゃんの得意の話術で... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー34 初対面 1

     初対面  保来探偵事務所は今日も暇である。本当にいつも暇なのである。平原彩音もこの状況にもう慣れた。 「丸畑さんの調査は、彩音も頑張ったらしいじゃないか」  母親の違う妹と分かってからは、信次郎は彩音の名を呼び捨てにしている。 「和ちゃんが褒めてたぞ。演技力が良いって。結実子さんの写真まで撮った... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー33 恋慕の果てに 4

     保来信次郎は、調査報告書を丸畑に渡さず、おもむろにページをめくる。 「結実子さんは、埼玉の地方都市で建築業をしている人と結婚しています」 「そいつは、いや、その人は歌手の卵だったと言う奴じゃないだろうね」  丸畑は、保来の話をぶった切って入って来た。 「先ず、違うでしょ。旦那という人は当時、建築... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー32 恋慕の果てに 3

     10時を回った頃、和枝はフロントに向かった。 「女将さんに伺いたいことがあるのですけど、お時間頂ければ有り難いのですが」  年老いた受付の男性は、女将を呼びに行ってくれた。 「どんなご用でしょうか?」  50代くらいの女性だ。 「こちらに、由井結実子さんと仰る女性が居ると聞いて伺ったのですか?」... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー31 恋慕の果てに 2

     帰りもまた、渋滞に嵌まった。ノロノロ運転していると後ろの車がクラクションを鳴らして来た。ルームバックミラーで確認するも、一度は無視する。しかし、何度も鳴らすので、顔を出し後方に目を向ける。  すると、後車の運転手が腕を出し、彼の車のタイヤを指差している。  砂利を引き詰められた畦道に嵌まり動けな... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱ-30 恋慕の果てに 1

     恋慕の果てに  ここまで聞いた保来信次郎は、丸畑の最初に語った内容とは随分違うと思う。これは、大恋愛でなく、大片思いだ。それも、保来の感じる所では、由井結実子なる女性は丸畑を、殆ど眼中に置いてない雰囲気だ。  第二候補、第三候補であろうと、そんな男達に多少なりとも好意を持っているのなら、 「大好... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱ-29 信次郎珍しく動く 2

    【いやー、昨夜は下書き段階で終わりにしてしまった。頭の中はてっきり正式投稿したものと思っていたが、なんだろう。年の所為か?】  社会人となった丸畑は中堅クラスの会社に入る。その会社は支店が沢山あり、その支店の一つで営業業務に就く。  事務志望だったが、新人教育の一環として、営業を遣らされる。その支... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー28 信次郎珍しく動く 1

     宮下は、刑事という仕事が邪魔してか、なかなか彼女が出来なかった。いま、偶然にも彩音と知り合った。そして、彼は彩音に一目惚れのような感情を持つ。  また彩音も、上京してこの方、同年代の若者と触れ合う機会が無かった。彩音もまた、誠実そうな宮下に親しみを抱く。  とは言え、警察と利害関係が微妙に重なる... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー27 恋? 1

    恋?  相変わらず暇な保来探偵社。そこに一人の青年が訪れた。 「保来社長は居ますか?」 結構軽い雰囲気で事務所に入って来た。 「今、用があって席を離れていますが」  平河美咲が応対する。 「また、何時ものサボりですか」  随分と馴れ馴れしい砕けた言い方だ。 「保来に、どんなご用件で?」  彩音が、... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー26 新たな頭痛 2

     実のところ、木村和枝が結婚したかどうかは微妙で、事実かどうかも分からない。和枝を知る多くの人達は、彼女が信次郎の見合い話を聞き、自ら身を引いたのではないかと見ていた。  当時、孝太郎を手伝って保来興信所の仕事を支えていた彼女が、唐突に「結婚するので」と一言残し辞めて去ったのは、信次郎や彼の母・ユ... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱ-25 新たな頭痛 1

      降って湧いた妹   この様な内容を話し終えるのに5時間ぐらい要した。何故か? 彩音の話があちこち飛びまくるからだ。  同級生の誰々ちゃんは性格が悪いとか、集配に来る運転手は小屋の後ろで何時もオシッコしていくだとか、家畜との出来事とか、本筋から外れる話が余りに多い。  保来信次郎は、そんな彩音に... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱ-24 巡り合わせ7

     彩音は高校を卒業して少しの間、牧場の仕事を手伝っていた。19歳に成る迄は牧場の仕事を手伝うと、母・幸恵と約束したからだ。  幸恵自身もやはり、両親から20歳になるまで東京行きを許されなかった。  もう一つ、牧場の仕事を覚えさせたなら、上京して何かあったら、その仕事を懐かしく思うかも知れないとの含... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー23 巡り合わせ 6

     娘の彩音が父・孝太郎を待ち構える。 「どうだったの?」 「どうだったって聞かれてもな。確かに、週刊誌に載ったのは息子の信次郎だったよ」 「それで、会って何話して来たの? 何か言われた?」  彩音にしてみれば、二十年間弱も音沙汰無しの父親が突然現れたのだから、特別な会話が有ったのではと思うのだ。 ... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱー22 巡り合わせ 5

     白髪の混ざった口髭と顎髭。目には老眼鏡。深く被ったハンチング帽子からはグレーの髪の毛が覗く。保来孝太郎である。  その風貌は、彼が失踪した時とは大きく変わっていた。彼を一目で孝太郎と見抜く者は、恐らく誰一人居なかったであろう。信次郎やその家族さえもである。  孝太郎も、自分であると見抜かれぬよう... 続きをみる

  • ほら探日記Ⅱ-21 巡り合わせ 4

     この幽霊屋敷は埼玉県の或る町にある。東京では無いが、彼女達にとってはそこは大都市圏内なので、東京と称しても大きな抵抗は無い。  東京ディズニーランは、実際は浦安にあるが、冠に東京と付いていても文句を言う人は殆ど居ないのと同じだ。  平河彩音も、誰かが持参した記事の乗っているその週刊誌を読んだ。彩... 続きをみる