創作小説

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ほら探日記Ⅱ-25 新たな頭痛 1

 
降って湧いた妹 


 この様な内容を話し終えるのに5時間ぐらい要した。何故か? 彩音の話があちこち飛びまくるからだ。
 同級生の誰々ちゃんは性格が悪いとか、集配に来る運転手は小屋の後ろで何時もオシッコしていくだとか、家畜との出来事とか、本筋から外れる話が余りに多い。
 保来信次郎は、そんな彩音に付き合いきれない。彼は自分の席に戻り、椅子の背もたれに身体を預け、足を机に載せ、離れた場所から彩音と和枝の会話を聞いていた。


 信次郎の思いは複雑である。如何なる事情があろうとも、忽然と姿を消し、何も知らせて来ない父・孝太郎。
 残された家族が、どんなに心配し心を痛めた事か。
 そればかりではない。妻ある身なのに他に女性をつくり、子供まで産んでいる。やはり、父をおいそれと許すわけにはいかない。
 彼は、内心モヤモヤしながら聞いていた。


 一方、木村和枝は信次郎とは違う思いで聞いている。
「孝太郎叔父様は、此処にいらしたのね。そう言えば、唯の通行人には見えなかった男の人と目が合った記憶が微かにあるわ。あの人が叔父様だったのね。記憶の隅に残って居たなんて。あの時、私に何か感じる物が有ったんだわ」


 和枝は保来夫妻に深い恩を持っている。行き倒れになった母子を救ってくれたのが保来夫妻だった。
 母親が亡くなった後も、自分達の娘として育ててくれた。その恩は決して忘れない。
 そういう事情もあってか、孝太郎が長い間音信不通で居たのも、妻以外の女性と愛し合ったのも、「事情が事情だっただけに」と、和枝の中では何もかも許せるのである。
 和枝は、なによりも孝太郎が生きていたのが嬉しい。頭の中はそれで一杯になった。なので、信次郎のような反感感情など微塵も湧かなかった。


 3階の自宅に戻り、和枝と二人きりになると、信次郎は胸に溜まった不満を一気に吐き出す。
「まったく、お袋に何て言えばいいんだよ。お袋が可哀想だよ。なー、和ちゃんもそう思うだろ?」
「そうね。少しはショックを受けるでしょうね」
「少しどころじゃないよ。立ち直れないくらいのショックだよ。どこの馬の骨か分からない女とイチャイチャして、子供までつくってるんだぜ」
「う~ん。でも、お母さんはそんなに気になさらないと思う」


 和枝は、信次郎の母・ユキを、旅館内では女将さんと呼ぶが、プライベートや外ではお母さんと言う。そして、信次郎の父親を叔父様と呼んでいた。


「その根拠は?」
「だって、お母さんは心の広い方だし、優しい方。事情を詳しく説明すれば、きっと叔父様を許してくれると思うの」
「あのねー、和ちゃんは結婚したことがないから、そんな呑気な事が言えるの」
 信次郎はそう言って、しまったと後悔した。和枝の表情が一瞬曇ったかに見える。


本文とは関係ありません。


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