創作小説

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回り道 その18

 根草大介と沢登智子はもんじゃ焼き店に入る。
「食事に連れてってくれると言うからどんな食べ物屋に行くのかと思ったら、これなのね」
 智子はもんじゃを頬張りながら言う。


「色々な食べ物を食べた方が良いんじゃ無いかって思ってね」
「う~ん? さては、結菜が大ちゃんに何か告げ口したな」
「告げ口なんて結ちゃんが可哀想だよ。あの子は、お母さんの力になりたいと思って教えてくれたんだから」
「うん、分かってるって。結菜はあれで結構他人思いなのよ」
「そうだね。賑やかに振る舞っているけど、それは俺も感じる」
「それじゃあさ、これから私を沢山食事に誘ってね。大ちゃんと一緒に食べ歩けるなんて嬉しい」


 大介は、智子の言葉に本心なのかと疑ってしまう。
(本当は、俺が金を払うので、それでリップサービスとして言ってくれたのか?)
 疑りたくなるのも無理は無い。何しろ、カラオケルームでの、智子の張り手はかなりトラウマだ。


「俺はさ、余り料理は詳しくないから、智ちゃんから何々を食べてみたい、どこそこのお店に行ってみたい、とリクエストしてくれると助かるな」
「ありがとう。考えてリスト作って置く」


 大介は、笑顔で食べる智子の姿を見てうっとりとしてしまう。
(やっぱり、智は素敵だな)
 大介の心に、そんな思いが溢れる。年齢なんか関係無いのだ。



 もんじゃを食べ終わると、大介が避けたかった話を智子がして来た。
「所でさ、拓海君に避妊しなさいよって言った?」
「言ってないよ。智ちゃんが言ってくれるって話だったじゃ無い?」


「嘘よ、私そんなこと言って無い。私から言うのは恥ずかしいし、言える訳無いでしょ。私の子じゃないんだから。大ちゃんが言うのが当然でしょ。『拓海、女性と関係するなら避妊しろよ』って、一言言えば良いんだから」
「父親の俺から言うのって、智ちゃんが思うほど簡単では無いんだよ」


「父親だからぶっちゃけて言っちゃえば良いのよ。あの子を妊娠させてからじゃ遅いのよ」
 二人はハッとなり、辺りを見回す。この話はこの店で話す話題では無いと気が付いた二人は、話を変える。


「もし仮に、智ちゃんがお店を開くとなったら、どんな食事を提供する店を考えているの?」
「未だこれと言って考えていない」
「トンカツ屋に興味を持ってるようだと、結ちゃんが言ってたけど」
「小規模の店しか持てないだろうから、そんな専門店も良いなとは思うけど。リピートを考えたら、メニューが難しいと思っている」


「拓海のバイト先では、ロースカツトンカツとかヒレカツとか、一口カツもあるそうじゃ無い。それだけでは駄目なのか?」
「昼食として、安く済ませたいという需要には一口カツ定食は良いと思う。でも、カツばかり続けて食べる人は居ないでしょ」
「やはり飽きるか。ならば、今イギリスで凄く人気なカツカレーを出せば。カツに合ったカレー味を探してさ。チキンも入れて2~3品」
「良いかもね。研究の余地はあるわね。でも、今から決めたくないの。いずれにしても、結菜が学業を卒業してからだから」
「それもそうだね。それじゃあ、それまで俺たち、大いに食べ歩こう」
 大介の言葉に、智子は眩しい程の笑みを浮かべ、頷く。


 問題勃発


 根草家に拓海の彼女・菜実が訪れて数週間が過ぎたある日。


 何時ものように智子は拓海に遅い朝食を出す。智子も向かい合って食べるのだが、お替わりとか、拓海の要望に応じ適時に椅子を立つなど、彼女はゆっくり落ち着いては食べられない。
 最も、智子が世話焼きなのであって、自分でお替わりやお茶、コーヒーを入れなさいと拓海に言う事も出来たが、ついつい手を差し伸べてしまうのだ。


「あのさ、俺に子供が出来たかも知れない」
 拓海が唐突に言った。
「あの子に、妊娠させちゃったの?」
 智子が心配していた言葉を、遂に耳にする。
  
「彼女が、妊娠したかも知れないって? ねー、ねー、彼女がそう言ったの?」
「そうは言ってない。ただ、何時ものが来ないって。ここんとこ疲れていたからその所為かも知れないとは言ってたけど」
「拓海君は覚え有るの?」
「うん、一応」
 一応所では無い。かなりの回数、楽しんでいる。


「それで、菜実さんは何て言ってるの?」
「ん? だから、もうちょっと様子を見ないと分かんないけどって」
「それだけ?」
「そうだよ」
 智子は、話にならないと、これ以上聞くのを諦めた。