創作小説

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回り道 その3

 後日、智子から連絡があった。気乗りしないが遣ってみると答えた。大介の息子・拓海を部屋から引っ張り出す作戦である。


「やったぜ。先ずは切っ掛けを作れた。しかしこの電話番号、変わって無いじゃないか。智子め、俺と近づくのが嫌だったという事か」
 智子に嫌われては居ないようだが、避けられているのは確かなようだ。 
「まあ、そんなことは気にしない。次の作戦を練らなくては」
 折角作った切っ掛け。逃してなる物かと、大介は色々と思案を巡らす。


 翌土曜日。沢登母娘は昼過ぎに遣って来た。
「こんにちは。初めまして。結菜です」
「こんにちは。ええー、結菜ちゃん、すーごく可愛いじゃ無い」
 先ずは来客に良い気持ちにさせる。それも一つの作戦。だが、結菜は確かに可愛かった。さすが智子の娘と、大介は思う。


「ありがとう。みんなからそう言われます」
 なかなかの返答だ。
「結菜、調子に乗るんじゃ無いよ」
 智子が、軽く結菜を叱る。


「明るくて良い子じゃ無い。羨ましいな」
「仮面よ。ウチに居るときには、超生意気よ」
 大介は、ここでこの母娘に深入りしてどちらかに肩入れしているように見られたら不味いと思い、満面の笑みと笑い声で、
「さぁ、さぁー。とにかく上がって」
 と、リビングへ招き入れる。


 結菜は、全く遠慮せずに辺りを見回す。
「結構リッチって感じ。おじさんちは金持ちなの?」
「これこれ。何て失礼なことを」
 智子が諫める。


「いいから、いいから。二カ所から給料貰っているから、少しはお金、有るかな」
「いいなー。私んち、超貧乏」
「当たり前でしょ。母子家庭なんだから」
「大きそうな家に見えたけど、部屋、幾つあるの?」
「そうだな。下は水廻りとキッチン、リビング。それに6畳ぐらいの洋間。和室にしようとも考えたけど、結局洋間にした。2階は4部屋。自分用の書斎みたいな部屋と元女房の部屋。それに子供用部屋に来客も泊まれるようにもう一部屋。トイレも2階に作ってあるよ」


「例の拓海君って、子供部屋に籠もっているの?」
「うん。拓海が小学校に入った機会に、今日から拓海の部屋だよって一部屋与えた」
「贅沢させているんだ。だから、甘えん坊に育ったんだ」
「こら、生意気言うんじゃ無い」
 智子がまた結菜を叱る。


「じゃあ、そろそろ昼ご飯を食べに行こうか。何を食べたい?」
「イタリアン」
「そうか。若い子には人気なんだな。おじさんはどっちかというと、自由に選べて沢山食べられる所が良いと思っていたんだけどな」
「どんなお店?」
「お寿司屋さん」
「あー、それ良い。結菜もそこにする」
「よし、みんなで回転寿司に行こう」
「えーぇ、回転寿司? しょぼー」
 結菜の言葉に、大介は大笑いする。


「そう言うと思ったよ」
 彼は更に笑い続けながら、
「高級レストランとかも考えたよ。でも、近くに無いしね。割烹料理で気取っても良いのだけど、大概予約が必要だしね。拓海が行くかどうか分からないから人数決まらない。そんなわけで結菜君、今回は回転寿司で我慢して。次は高級な店、連れてって上げる」
「しょうが無いな。分かった、我慢して上げる」


「結菜! いい加減にしなさいよ。いくら親戚の叔父さんだからって、言いたいことを言って。駄目でしょ!」
「良いじゃ無いか。かしこまってだんまりしているよりは」
 大介が、取りなすように口を挟む。
「まったく、恥ずかしい。とにかく結菜は、明るいのが取り柄だけ」
 智子は、困ったものだという顔をして言う。  

 一方、大介はというと、
(この結菜という子は使える。母親より先に、この子を落とせばドンドン先に行けるぞ)
 彼は、心の底でニンマリする。



music 蝶の舞い
プロの作曲家では無いので、好きなように自由に曲作りを楽しんでいます。