創作小説

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ほら探日記Ⅲ-2 実父 2


 父親だという男の名前は鈴木健一。健一と和枝の母・敏子は、同じ旅館で働いていた時に深い関係になった。
 妊娠したのを知り、敏子が健一に伝えようとした直前、調理人だった健一が料理長と刃物沙汰となり、彼はその日のうちに姿をくらましてしまった。


 料理長に深手を負わせただけに逃げるのに一生懸命で、彼は敏子の事まで気が回らなかったのだろう。とは言え、愛し合った敏子をそのままにして自分だけ逃げ出す行為に、和枝は少なからず恨みを持っていた。


 その様な経緯から、鈴木健一は和枝の存在を知らないまま今日まで来たのは致し方ないとは思う。
 しかし、和枝の気持ちにわだかまりがある以上、父に会うべきかどうかで、彼女は悩んだ。


 そんな気持ちを、健一の余命幾ばくも無いという病気が後押しして、会ってみようとの決断を彼女にさせた。


 受付で、和枝は姪と記した。花束を持った女性という事もあり、看護師はすんなり鈴木健一の病室を教えてくれた。
 病室は大部屋。空きベッドもあるようだが、複数の人の息づかいが聞こえてくる。
 さすがの和枝も緊張する。


 健一のベッドは窓に近い場所。隣の窓際ベッドは空いていた。彼は眠っているのか瞼を閉じている。
 和枝はしげしげと健一を見下ろす。
(この人が私の父なのか)


 すると、人の気配に気が付いたのか、健一の瞼が開いた。
「どなた?」
 突然だったので、和枝は動揺する。
「あっ、私、以前父が鈴木さんに大変お世話になったそうで、病気と伺い、父の代理で来ました。父も体調が優れないものですから」
 咄嗟に誤魔化した。


 健一はジーッと和枝を見続ける。その視線が、和枝をいたたまれない気持ちにさせる。
 暫くして
「若しかしたら、木村敏子さんの関係者かね?」
 和枝は驚いた。母を「さん」付けで呼んだのも驚く。


「違いますが、どうしてその様に感じたのですか?」
「自分を訪ねて来た人物が居ると、看護師さんから聞いた。自分が病気でこの病院に入院している事は家族以外は知らない筈。その人物の様子を聞くと、刑事か探偵のように思える」
 健一の読みは余りに鋭かった。彼は今日まで、自分の為した傷害行為に怯えて暮らしていた節がある。


「刑事なら堂々と顔を出す。探偵なら、思い当たるのは敏子の事しか無い」
 そして再び、和枝をマジマジと見る。
「敏子さんの娘かね?」
「何故そう思うのです?」
「かなり記憶が薄まってしまったが、敏子の面影が貴方にあるように見える」
「その敏子さんと言う人は、どの様な関係の人ですか?」
 和枝は、健一が自分をどう見ていようと構わず質問する。