創作小説

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ほら探日記Ⅱー44 秘密の調査 1


 秘密の調査


「今日は、父さん一人で調査なの?」
 調査は、殆ど孝太郎と幸恵のペアで行っていた。息がピッタリで仕事が捗(はかど)るのか、二人は常に一緒に動いていた。


「何か大切な調査をしているらしく、私にも内容が分からないのよ。調査が完了するまで2~3日泊まってくるって」
 信次郎は、父の調査に興味は無い。
「泊まりがけで調査? 事件絡みなのかな?」
 信次郎が心配する。


 「ヤスキハイツ」アパートの3階に住む信次郎の部屋に、父・孝太郎と平原幸恵が現れて数ヶ月が過ぎた。
 その間、二人は殆ど一緒だったので、信次郎と幸恵の二人だけになるのは初めてだった。
 信次郎と幸恵の年齢差は一歳。幸恵の方が年上だった。


「親父は一体何を考えているの? 此処に居座る積リなのかな?」
「私たちは邪魔なのね」
「いや、別にそう言う積リでは無いが・・・」
 実のところ、信次郎はとても邪魔に感じていた。色々見張られているような感じがして落ち着かない。


 信次郎の心を見透かすように
「私たちを意識しないで、自由にすれば良いのに。例えば、和枝さんに会いに行くとか。仕事の依頼が入ったら、私たちが対応して上げるから」
「別に、和ちゃんに会いたくなったわけでは無いよ。でも、例え実家に帰るにしても、今は時期が悪い」
 帰りたくても帰り辛くさせているのはあんた達だろうと言いたいのを、信次郎はグッと堪える。


 孝太郎から信次郎の性格を知らされているのか、それとも幸恵の頭が良いのか、信次郎の気持ちを察して幸恵が言う。
「もう少しで総てが終わると思う。孝太郎さんから調査の内容を誰にも言うなと堅く口止めされているから詳しくは言えないけど」
 隠しきれないと思ったのか、幸恵はそう前置きにして孝太郎の行動を説明する。


 孝太郎が意を決して上京したのには二つの理由があった。一つは、妻であるユキとの間をスッキリとケジメを付ける為。
 もう一つは、孝太郎が探偵業現役だった頃の調査を継続する為だった。


「当時、孝太郎さんはある調査をしていた。暇を見ては僅かな手掛かりを辿って調査していたが、北海道に来る事になり、結果的に私たちと暮らすようになった。なので、調査が中途半端のままだった。今、孝太郎さんはその調査を継続しているところ」


「やはり、桜谷貴子の件?」
「それは違う」
「そんな過去の調査を継続しているなんて、余程大事な依頼なんだね。依頼主がよく我慢しているな」
「そうね」
 幸恵は、含みのある笑いを浮かべる。


「親父はお袋と離婚するつもりなの?」
「多分」
「それじゃあ、親父はあなたと一緒に北海道に帰るんだ」
「それはそうなって欲しいけど。でも、貴方のお母さんに会って話してからでしょ。どうなるかは分からないもの」


「幸恵さん自身は、親父と一緒に暮らしたいのかな?」
「出来ればね。だって、彩音が保来家に取られるかも知れないもの。私が孝太郎さんを貰っても良いでしょ?」
「だよな。お袋も多分そうすると思う。それで、親父も矢っ張りあなたと暮らすのを望んでいるのかな?」


「孝太郎さんは北海道の大地が好きだと言っていた。幼い頃から山並みに囲まれて育って、空が狭く感じていたからなのか、広い空の下で暮らしたいという夢を持っていたそうよ。きっと、住んでいた地域が狭く、息苦しかったんでしょうね」


「うん、俺もそんな気持ちがあった。広い所で心を暴れさせたいと言う想いが。でも俺の望みは、沢山の人が渦巻く都会だったけど」
 信次郎は、若い時に抱いた想いを振り返る。