創作小説

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ほら探偵のらりくらり日記Ⅱー42 新たなコンビ 3


 信次郎は将来に不安を覚えた。木村和枝の居ない探偵社なんて有り得ない。
 信次郎の心を見透かす様に、孝太郎が言う。
「お前が探偵業を遣らない積りなら、あの事務所を引き払え。誰かに貸した方が遙に儲かる」
「俺に、探偵業を辞めろと言うのか?」
 信次郎が反発する。


「辞めたければ辞めれば良いが、俺は辞めろとは言って無い。事務所を、玄関近くの空いている部屋に移せと言ってるんだ」
 孝太郎の言う事務所移転の案は、信次郎の頭の中には全く無かった。


 孝太郎は続ける。
「今貸している学習塾を事務所を開けた部屋に移して貰い、道路沿いの空いた部屋は店舗として貸し出す。まあまあ人通りが有るのだから、上手に経営すればそこでも稼げる筈だ」
 孝太郎の案は、一つのアイディアとして悪くはない。


「うん。良いかも知れないな。丁度、後3ヶ月ぐらいで学習塾も出て行く予定なんだ。最近はライバルも増えたし、少子化もあって経営厳しいみたいだから」
「それは好都合。探偵事務所後には、会計か法律事務所あたりに入って貰うと良いな」


「父さん。入居者選びは難しいんだ。こっちの希望通りにはならないよ」
「そうだな。その辺は不動産屋に頑張って貰おう。そうそう、俺たち暫く此処に居るから宜しくな」


「ちょっと待って。2~3ヶ月って言ってなかったっけ?」
「何か、ここでまた探偵業をしたくなった。なんなら、ズーッと居ようかとも思い始めた所だ。部屋も空いている事だし」
 すると、それまで黙って二人の話を聞いていた幸恵が一言。
「宜しくお願いしますね」


「生活費はどうするの。アパートの家賃収入分配は母さんに決められていて、余計に貰えないよ?」
「何とかなるさ。俺たちも稼ぐから」


「どうやって稼ぐの。父さんはいい歳だから仕事少ないよ。交通誘導員でも遣るつもり?」
「お前、何を言ってるんだ? 探偵業に決まってるじゃ無いか。今言ったばかりだろ」


「聞いたよ。だけど、調査の依頼なんて殆ど無いよ」
「俺はお前と違う。良いから見とけ」
 信次郎に反論の余地は無い。反論したところで、父親には敵わない。


 こうして、孝太郎と幸恵が、信次郎と一緒に暮らす事と相成った。それは、孝太郎と幸恵が仕組んだ出来レースの様にも思える。


 孝太郎は、住まい兼事務所にするよう提案したが、さすがにそれは信次郎が拒む。


 そこで、アパートの空いていたワンルームを改装する。その新しい事務所は一ヶ月余で完成した。
 将来、再び部屋として貸し出しが出来るように、置き床方式を選択。5センチ高の支持脚とセットの合板付きタイルパネルを並べて元の床を覆う。
 仕上げにタイルカーペットを敷いて完成。これなら、土足で出入り出来るし、足音などの騒音もかなり少なく出来る。


 トイレ無しのユニットバスは、傷つけないように覆い、物置兼更衣室にした。変装するための着替えをする為だ。
 また、来客に見せたくない色々な小道具なども収納出来る棚も作った。


 トイレ室は、思い切って便器も替え、温水便座も設置した。序でに、壁紙やCF床シートもこぎれいな雰囲気の物に替える。


 1階にあった事務所に比べれば手様だが、感じの良い事務所が出来上がった。最も、保来探偵社に調査依頼に訪れる客は珍しい。
 無用の長物とも言えるが、綺麗だと働く者たちの気分が良い。



music 星に隠れんぼ