創作小説

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回り道 その2

 智子が、結婚したと聞いた時には、正直大介はちょっとショックだったし残念に思う。とは言え、間もなく遠くに引っ越したので、暫し彼女の事は忘れていた。
 この法事で、暫くぶりに再開した智子に、彼は今、ある考えが芽生える。 


 根草大介は沢登智子に携帯番号を聞こうとする。
「これ、俺の名刺。裏にスマホ番号書いてある。智ちゃんの携帯番号も教えてくれる? 拓海の件で相談に乗って欲しいので」
「来週にでも番号変える積リなのよ。なんかね、義母が電話掛けてくるんで面倒で。どうも、次男三男の嫁さんと上手く行ってないみたい。愚痴を聞くのも嫌になって」
「そうなんだ。じゃあさあ、番号変更したら教えて?」
「うん」


 それから一週間。智子から何の連絡も無い。
「警戒されたかな。別に嫌らしい考えなんて無いのにな」
 果たして、大介に本当に邪心が無かったかは怪しい。


 大介は、久しぶりに実家に帰る。
「父さん。この間の法事、父さんが仕切ったんだろ。出席者名簿あるだろ。見せて欲しい」
「そんなの見てどうするんだ?」
「父さんの後を継ぐのは俺。一応、出席した親戚を把握しておきたいからね」
「何だ? 俺の葬式の為か?」
「またー。父さんがそう簡単に死ぬわけ無いだろ。いいから見せてよ」


 大介の母親が、出席者を記録したノートを差し出す。
「千葉の叔父さんも来てくれたんだね。俺と同じ年代のいとこ達は元気かな」
 一応、記されている名に反応する振りをする。


 勿論、出席者名簿に関心があるのは唯一つ。
(あった。これこれ)
視線を落とした名前は沢登智子。
(おっ、電話番号も書いてある)
 大介は、両親にわからぬようメモを取る。


「ありがとう。これ、返す」
 大介はノートを母親に渡す。
「拓海はどうなんだ? 相変わらず部屋に引き籠もっているのか?」
 父親が聞く。


「そうなんだよ。全く困ったもんだよ」
「あなたたち親が悪いのよ」
 母親が叱責する。
「うん。諦めずに努力してみるよ」
 大介は、そう答えるほか無かった。

 家に戻った大介は、メモを見ながら悩む。
「もう、番号変えちゃったかな。どうしよう。一応、この電話番号に電話してみるか」
 大介はメモした電話番号に掛けてみた。


 なかなか出ない。諦めて切ろうとした時。
「どなたですか?」
 訝る風な智子の声が聞こえて来た。
「智ちゃん、俺だよ、大介だよ」
「大ちゃん? 何の用?」
 智子は素っ気ない返事を返して来た。


「まだ、電話番号変えてなかったんだ。良かった。実はね。智チャンと娘さん。名前、何て言ったっけ。みんなで食事をしないかと思って」
「いいよ、そんなの誘ってくれなくて」
「頼む。そう言わず俺の願いを一度だけ聞いて欲しい」


「なに?」
「拓海に智ちゃんが声を掛けて欲しい。『みんなで美味しい物食べに行こうよ』って」
「私が言ったって、顔なんか出さないって」
「そこを何とか。例えば「叔母さんだけど久しぶりに拓海の顔を見たい』とか何とか上手いこと言ってさ」


「何か、面倒臭いな」
「そこを何とか。一度だけでいいから。反応しなかったらそれはそれで良い。俺たちだけで飯食いに行けば良いから。食べたい物奢るから」
 大介は同じ言葉を繰り返し、智子を拝み倒す。
「結菜が何て言うか分からないけど、聞いてみる」
 まるで乗り気の無い智子の声。しかし、大介は一歩進んだと満足する。



美しい八重桜の写真を掲載しています。総て以前に撮影した物。
曲はイマイチの感があるが、素人なのでこんなもんでしょう。