創作小説

小説を主に掲載していきます。

回り道 その1

 「回り道」
 大介筋書きを練る


「やあ、久しぶり。元気そうだね」
 根草大介はいとこの沢登智子に話し掛ける。
「うん。貴方もね。所で名前、何て言ったっけ?」
「大介」
「そうそう、大ちゃんだった」
 智子は、愛想笑いを浮かべ応える。


「旦那さんの葬儀に行けなくてゴメンね」
 二年ほど前に、智子の夫は亡くなっていた。
「いいのよ。三重県は遠いもん。それに、知らせてなかったし。でも、何故知ってるの?」
「親父が叔母さんから話を聞いたみたい」
 大介の父親の妹が、智子の母親である。大介から見れば、智子の母親は叔母に当たる。その叔母は、根草家から都県境を超えた地域に住んでいた。
 智子は、結婚して数年前まで三重県の旦那の実家で暮らしていた。その後、夫が他界したのを切っ掛けに実家の近くに舞い戻っていた。


【最新作の物語の筆が進んでいません。ですので目を通した方も沢山居ると想いますが、以前掲載した作品を載せます。ただ、作品は進むほど進化していて、以前の内容とは違う部分も多々あります。前回掲載した内容の最後の方は投げ遣り的になっていて、中途半端で終わりにしてしまった。反省しています。何と言うか、言わば、前回は書き殴り、今回は清書という感じになるでしょうか】


「こっちに引っ越して来たんだって?」
 大介はリードするように、矢継ぎ早に話し掛ける。
「夫とは東京で知り合い結婚したけど、彼は長男なので実家の三重に引っ越した。それは大ちゃんも知ってたでしょ。けど、夫が亡くなれば結構居づらいのよね。彼には弟が二人も居るから、義理の両親の面倒見るだろうから、思い切って返って来た。それに、居座ると財産目当てと思われるのが嫌だったし」


「俺、旦那さん見たことある。結婚式に呼んでくれたから。しかし、亡くなるの早かったね。幾つだったの?」
「46歳」
「死因聞いてもいい?」
「脳梗塞」


「え、そんなに若いのに?」
「油っぽい物大好きだったから、油が溜まって血管塞いじゃったんじゃないの?」
「本当に?」
「知らないよ。私は病名を知らされただけだから」
智子の言い分はご尤もだ。死んだ事実の方が衝撃で、その理由を詳しく聞く余裕が無い。仮に、原因が油脂分の取り過ぎと言われたら、夫の親戚達に食事管理がなってなかったと責めを受けかねない。
   
「こっちに越してくれば、智ちゃんの親戚も多いしね。良い選択だと思うよ」
「まあね。実家に戻ろうかとも思ったけど、私の妹が家に陣取っていてね、戻れなかった」
「妹さん、結婚したの?」
「独身よ。母としょっちゅう喧嘩しながらも一緒に暮らしている」


「そうなんだ。叔母さん元気? なかなか、叔母さんの家まで行けないから様子が分からない」
「元気だったけど、この間捻挫しちゃって。それで、母の代わりに出席してくれと頼まれたからこの法事に来た。それに、此処で暮らすなら親戚に顔出しして置いた方が色々と助かるだろうからって」
 根草大介と沢登智子はこの日、祖父母の法事に出席していた。


「そうか。智ちゃんはバツイチになったんだよな。俺もさ、女房と離婚した」
「浮気でもしたんでしょ。男って、どうしようも無い動物だから」
「言ってくれるね。旦那も浮気してたんじゃ無いの?」


「してた。だから、とっちめて遣ったわ。白状させ、もうしないという確約したのを録音したよ。でも、もう必要なくなった」
「怖い・・・」
「そうよ。その夫の浮気で、何となく鬱陶しかった義母の口封じが出来たわ」
 智子が、若い時から少々気が強い女性であったのを、大介は思いだした。


「何処に越して来たの?」
「練馬区。やはり東京よね。仕事が一杯ある」
「働いているんだ。頑張っているんだな。そう言えば、女の子が居るって聞いてるけど、その子の為にも働いているんだ」


「まあね。母子家庭の手当てだけではね」
「何歳?」
「15歳。来年春高校。受かればね」
「ウチの息子と変わらない。拓海は16歳」
「あら。だったらもう、高校生じゃない?」
「そうなんだけどさ、彼奴、今不登校中なんだよ」
「何時から?」
「二ヶ月前ぐらい前から」


「それじゃあ、早いとこ何とかしなくちゃ。ズーッと行かなくなるよ」
「分かっているけど、引き籠もっちゃって。俺と満足に話をしないんだ」
「そんなに難しい子なの?」
「やはり、女房と別れたのが影響してるのかな?」
「何時離婚したの?」
「三ヶ月ぐらい前。一応、拓海の受験勉強に影響しないように、彼奴が高校に受かってから別れた」
「あらそう。大変ね。その点ウチは心配ないわね。もう居ないから離婚しようが無い」
 智子はそう言って笑った。


 智子の、その笑顔が大介の心に響く。
(さすがに若い頃と違って老けているが、やはり消えない魅力が残っているな)


 実を言うと、大介は十代の頃から智子が好きだった。「いとこ」という血縁関係から自分の気持ちを抑えて来た。
 若い頃には偶に会う機会があって、その時話を交わすのがとても楽しみだった。