創作小説

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回り道 その14

 ドカドカと拓海がキッチンに現れた。
「連れて来たよ」
「良く来てくれたわね」
 智子はご飯の盛り付けをしながら応え、後ろを振り返り、キッチン入り口に視線を向けた。


 智子は、思わずご飯茶碗を落としそうになった。
「えっ! 女の子なの?」
 拓海の後ろに隠れるようにして立っていたのは、紛れもなく女性だった。否、そうに見える。
(まさか、トランスジェンダー?)
 智子は、拓海の相手ならあり得るかも知れないと思ってしまう。
「紹介するね。河里菜実さん」
「菜実です」
 彼女はちょこんと頭を下げた。


 全く予想もしていなかった展開。拓海の友達が男なら、多少変わっていても動じはしない。だが、彼女となると受け止め方が大きく違った。
 智子は心の動揺を抑えながら二人を席に着かせる。


「拓海君ったら、彼女なら彼女と最初から言ってよ」
「彼女かどうかは分からないけど、友達は友達じゃん」
「そりゃ、そうだけど。菜実さんって言ったわね。お歳は幾つ?」
「18です」
「拓海君と同じお店で一緒に働いているのね。ご両親と一緒に住んでいるの?」
 すると、拓海が口を出す。


「菜実さんの両親は彼女が小さい頃離婚したんだ。それで、最近までお母さんと二人で暮らしていたけど、菜実さんのお母さんが身体の具合を悪くして、今は実家に帰っている所」
「それじゃあ、今は一人で住んでいるの?」
 智子は菜実に向かって質問する。が、またしても拓海が割って入って答える。


「菜実さんも、一緒に田舎に帰ろうとお母さんに言われたらしいけど、学校の件もあるし、もう少し東京に居たいって、一人残ったんだ」
「一人で住んでいて、危険は無いの? アパートに住んでいるの? 家賃大変でしょ?」
 智子は矢継ぎ早に質問する。


「チョット古いけど、3階建てのマンションタイプのワンルームに住んでいる。大家さんがとても親切で、セキュリティーにも気を配ってくれてるよ。生活費は田舎から送ってくれてるんだって。そりゃ、一人暮らしだもの。心配して仕送りしてくれるさ」
「拓海君、部屋に行ったことあるの?」
「うん、あるよ。何で聞くの?」


(何でじゃ無いでしょ)
 智子は心の中で拓海を叱る。


 大人から見れば、一人暮らしの独身女性の部屋に行くと言う事は、よからぬ想像をしてしまうのは当然。
 だが、何も無かったのかと聞く訳にはいかない。智子は気掛かりな部分を一旦置いて、話題を元に戻す。


「貴方の実家は何をしているの?」
「祖父母が野菜を作っている農家です」


(成る程。だから名前が菜実なんだ。きっと祖父母が付けたのね)
 智子は、余計な推理をしてしまう。


「それじゃあ、お母さんはお手伝いも兼ねて、療養しているんだ」
「はい。最近は健康になったと喜んでいます」
「そうよね。自然の中で過ごすのは身体に良いものね」
 ここまで来て、智子の菜実への質問が思いつかなくなってしまった。


 本当は、拓海の友達が家に来たら、バイト先のとんかつ店の様子を詳しく聞き出す積リで居た。
 所が、遣って来た友達というのが男で無く女だった。予定が狂って仕舞い、店に関しての質問は何処かに行ってしまった。


「あらごめんね。話し掛けてちゃ食べられないよね。私、洗濯物が乾いたかどうか見てくる。気楽にして食べてね。拓海君、お替わりは頼むね」
 智子はキッチンを離れた。