創作小説

小説を主に掲載していきます。

ほら探日記Ⅱー40 新たなコンビ 1

 新たなコンビ


 信次郎は、二人を自分たちが住んでいる3階の部屋に連れて行く。
「おお、外から見たよりも広く感じるな。部屋は幾つあるんだ?」
「5部屋。リビングに水回り。トイレは2カ所。お客さんも泊まれるようにしてある」


「ユキの指図か?」
「母さんや、東京見物したいという仲居さん達が何時でも泊まれるようにと、部屋を多く造った。別に、父さんが帰って来た時の為では無いから」
「そうだろうな。ユキらしい考えだ。先ずは家族よりも旅館。旅館の方が大切だからな」


 父・孝太郎のこの言葉は、多くの含みがあると信次郎は感じる。
 しかし、その言葉の真意を父に聞くでも無く、信次郎は客室用の部屋に案内する。


「丁度ベッドが二つあるじゃ無いか。俺たちにとって十分な部屋だ」
「だから、親父達の為に開けてある部屋じゃ無いから。一体、何時まで居座る気なんだよ」


「お前、偉くなったな。父親にそんな事を言って良いのか? 何だか、仕事など丸っきり出来ないで総て和ちゃんに投げ、お前は毎日ブラブラしているそうじゃ無いか」


「そんな情報を誰が? そうか、彩音の奴か」
「アパート収入が無かったら、探偵社などとっくに潰していた所だろ」
 信次郎に、段々分が悪くなってくる。


「分かったよ。好きなだけ居なよ。でも、俺たちのペースだけは乱さないでくれよな」
「そうか。わし達に居て欲しいと懇願するんだな。良し分かった。可愛い倅だ」
「そんなこと言って無いけど」
 さすがに、信次郎の怒りの声は小さくなっている。


「もう、その位で止めましょ。信次郎さん、私たちはある目的で上京したの。その目的を果たせば、北海道に帰る予定なのよ」
 平原幸恵が割って入った。


「ある目的って?」
「今はそれを言えない。何れ分かることだ」
 孝太郎が真剣な眼差しで答える。


「所でさ、旅館には何時行くのよ?」
「そうね。彩音の働きぶりを見てみたいしね。一ヶ月位してからかしら。ねえ、孝太郎さん?」


「ええー? そんな後になるの?」
「だから、今言ったろうが。目的を果たすためにはその位の時間が必要なんだ。多分な」


 父・孝太郎と平原幸恵は、まるで夫婦のように仲が良さそうである。それも信次郎は気に食わない。


「取り敢えず、明日から数日は幸恵を東京を案内するつもりだ。わし達の飯の心配は要らんぞ。自分たちで作って食うから。台所は借りるけどな。和ちゃんに宜しく言っとけよ」
「えー、彩音から聞いている話だと、『母は何年か東京で働いていた』と言ってたぞ。今更東京見物なんて・・・」


「時代は進んでいるんだよ。それで無くとも東京は凄まじい速さで変化しているんだ。文句を言うな」
「はいはい、そうですね。お二人でごゆっくり楽しんで下さい」
 放り投げるように言うと、信次郎はサッサと事務所へと戻って行った。



少し変わったメロディーにしてみました。

ほら探日記Ⅱー39 わだかまり 3


 今まで、信次郎に和枝との結婚をせっつく人は何人も居た。両親もそうだし、探偵業で知り合った岩田も安藤絵美子もそうだった。
 口汚い刑事の浅羽は、
「和枝さんを生殺しにするのか」
 とまで言い放った。だから、信次郎は浅羽を毛嫌いしている。
 最近では、妹の彩音にまで、
「和枝さんは兄さんを待ってるのよ。このまま和枝さんをお婆さんにしちゃうの?」


 信次郎とて、そんな事は百も承知だ。理由があって結婚出来ないんだと、言い返したい気持ちが続いていた。
 彼の、そんな気持ちに変化をもたらしたのが、跡継ぎ問題だった。


 旅館経営は楽な仕事とは言えない。企業形式にすれば少しは違うのだろうけど、身内で旅館業を繋ぐのは、現在に於いては簡単な事では無い。
 保来家の旅館も然りだ。父、孝太郎の代になってから可笑しくなった。主として旅館を管理しなければならないのに、周囲の反対を押し切って彼は上京した。
 そんな父親を見習ったわけでは無いだろうが、信次郎もまた東京に出てしまった。


 夫は諦めるにしても、信次郎の後継は諦めきれないユキ。彼女の望む姿は、息子が結婚し、孫を生んでくれる事だった。
 その様な形になれば、嫁に多少不満があっても息子夫婦に道を譲れる。そんなユキの気持ちを知ってか知らずか、親孝行もせずに信次郎は勝手放題にしている。


 しかし、信次郎も歳を重ねる毎に、母親の苦悩する姿は感じていた。だから、母の願いが叶えられるならばと、わだかまりを乗り越え和枝と深く愛しあったのだ。。
もしも、和枝が信次郎の子供を生んでくれたら、無上の親孝行となる。


 ユキの望む理想は。信次郎と和枝が結婚してくれることだった。しかし、かなり前からその芽は無いと諦めている。
 一時は、信次郎に見合いをさせ、無理矢理結婚させたが、一年持たずに離婚。ならば、結構しなくてもせめて信次郎の子を生んでくれる女性が現れて欲しいと願う。
 が、未だにその気配すら無い。
 とうとう、ユキは全てを諦めた。ユキはかねてより、女将の座の繋ぎを和枝に任そうと考えていた。それを今回実行に移し始めた。


 和枝の女将就任を、古くからの従業員達は既に認めている。和枝の人柄もあるが、立派に役割を果たせる能力があると皆が見ているからだった。
 ただ、和枝は誰かと結婚する意思は無いと明言している。やはり、一時的な後繋ぎとならざるを得ない。
 そんな時に現れた、父親の遺伝子を持つ彩音の登場は、旅館の後継、存続を考えればプラスと見えた。ユキは、感情を押し殺して彩音を迎えいれたのである。


 和枝は彩音の正体を知って直ぐ、ユキに詳細を話していたのだ。当初はユキも夫・孝太郎の身勝手さに怒りを抱いたが、やはりそこはユキの心の置き所が違っていた。
 旅館の女将としてのユキは、後継者問題を優先して考えるようしたのだった。


 腹を決めたユキは、和枝にその旨を話していた。信次郎が緊張した面持ちで母親と対面したのに対し、和枝が平常心で居た理由はそれだった。

ほら探日記Ⅱ-38 わだかまり 2


 保来家は山間から離れた中核都市に別宅を持っていた。その家に、ユキに女将の座を譲って引退した祖母が一人で暮らしていた。
 やはり街の方が買い物も病院に行くのも便利だからである。


 保来信次郎は、進学するに当たってその街にある高校を選んだ。高校生活は祖母と一緒に始まった。
 若者が遊ぶ物など無かった山間部の生活。その反動か、保来には街の生活が楽園に思える。ホームシックなど掛かる暇など無い。


 全く頼りを寄越さない信次郎を心配し、母・ユキが木村和枝を祖母と信次郎が生活している家に行かせた。
 木村和枝に強く勧めた高校進学。この時の和枝は頑として進学を辞退した。そして、旅館の手伝いを始めた。
 初心者として仲居の仕事に就いたのである。


 そんな和枝に、ユキは信次郎の元に行かせた。信次郎の案内で、和枝も街の雰囲気に触れて、息抜きして欲しいとのユキの心遣いだった。。


 その夜。年寄りは床に就くのが早い。祖母の就寝を確認すると、信次郎は和枝の寝ている部屋に忍び込んだ。
 エネルギーが有り余っている年代。最早、信次郎の行動は止められない。


 お互い初めてだったので、すんなり進まない。やっと彼女と愛し合えたその瞬間、信次郎は頭を叩かれたようなショックを受ける。彼の中にフラッシュバックが起きたのだ。
 彼は、思わず腰を引いた。


 和枝の母が亡くなった通夜の席で、身じろぎもせず横たわったたった一人の肉親である母の姿を見つめ続ける幼い和枝。その記憶が信次郎の脳裏に焼き付いていた。
 更に、後に母から聞いた話も浮かんで来る。


 通夜に出席してくれた人達の中に、
「あの子は母親が亡くなったというのに、涙一つ流さず泣きもしない」
と漏らす人が居たと。和枝の事である。


 夜が更けると、幼い和枝は睡魔に勝てず、母親の体の側に俯して眠ってしまった。ユキは和枝を抱き上げ別室に運び、寝かせた。
 暫くして様子を見に行くと、和枝は枕をびっしょり濡らし、顔には流した涙の後が乾いて残って居たと言う。和枝は寝ながら泣いていたのだと、ユキは信次郎に語った。


 それらの記憶が、信次郎の頭の中を駆け巡た。最早、激しかった彼の欲情は静かに収まってしまった。


 それから後も、時折和枝に性欲を覚えたが、その度に、あの夜と同じ光景が現れる。和枝の母が、我が娘を守ってるのでは無いかと邪推したくらいである。
 保来は、和枝に性的な欲求を満たすのは諦めた。


「そうだったんだ」
 和枝は感慨深げに呟いた。
「もう、和ちゃんは抱けないと観念した時、和ちゃんとは一緒になれないと諦めた」
「どうして?」
 分かっているはずなのに、和枝が敢えて問う。


「男は生理的に女が欲しくなるもの。その欲求が満たされなければ、他の女に行く。それって、不倫だろ。和ちゃんに申し訳ないもの。和ちゃんだって嫌だろ?」
 和枝は、クスッとわらった。信次郎も微笑んだ。


「兎に角、俺は呪縛から解放された。和ちゃんを抱けたなんて、こんな嬉しいことはない」
「もう、私のお母さんは出てこなくなった?」
「うん」
「そうかー。あの時私は寝ながら泣いていたのか。知らなかった。自分でもね、何故涙が出てこないのかと思っていた。とっても哀しかったのに」



「和ちゃん、ありがとう。俺たち家族のために和ちゃんの人生を犠牲にしてくれて」
「あら、私、自分を犠牲になんかしていないよ。寧ろ、孝太郎叔父様や信ちゃんのお陰で、生活の心配なく探偵業を楽しませてもらってるんだもの」


「籍、入れよう」
「それはね、期待凄く薄いけど、赤ちゃんが生まれてから」
「どうして?」
 信次郎は不思議そうな表情をする。和枝は、ただ微笑み続けているだけだった。


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ほら探日記Ⅱー37 わだかまり 1


 わだかまり


 信次郎は一人自宅で退屈な日々を過ごす。案の定、探偵社は閉めてる。
《只今遠地に調査作業に出向いていますので、暫くの間、保来探偵社事務所を閉めさせて頂きます》
 そんなような内容を、留守番メッセージに残す。


「この際だ、海外旅行にでも行ってこようかな」
 そう思ったが、旅慣れない海外旅行は一人では詰まらないと、考えを変える。
沖縄も脳裏に浮かんだが、父親の住んでいる地に行き、様子を窺うのも面白いとも考える。
 しかし、元来出不精な性格である信次郎は、一向に出掛けようとしない。
 
 そんな中、半月程経って木村和枝が東京に戻って来た。
「どうだった? 彩音は女将の素質を持っていそうか?」
「試しにという形で、いろいろ遣って貰ってる所。未だなんとも言えない。でも、仕事としてなら大丈夫だと思うけど、続けられるかなとも思う」


「飽きて、途中でさじ投げられたら意味無いもんな。継続は必須条件。覚悟が見えないと」
 信次郎とて、母が高齢になって来ているだけに旅館の後継問題は気になる。それだけに、呑気に生きているであろう父・孝太郎が腹立たしくなる。


「お袋は、親父の件で何も言わないのか?」
「お母さんは、旅館経営を続ける為の跡継ぎ捜しに一生懸命なのよ。彩音ちゃんが現れたことで、その選択肢が少し広がった。そう捉えているみたい」


「彩音は、母さんにはアカの他人だが、母親が違うとは言え、俺の妹だからな。どうしても気になるんだ」
「まあ、美しい兄妹愛。初めて彩音ちゃんが来た頃の、信ちゃんの様子が目に浮かぶわ」
「それを言うなって。彩音が妹だと言うのを隠していたのが悪いんだ」



 久しぶりに、信次郎と和枝二人だけの時間が出来た。彩音が来てから二人っきりになる時間が殆ど無かった。
 何となく新鮮な感じがする。


 厚切りした食パンをトーストで焼き、バターを塗る。入れ立てのコーヒーを飲みながらそのパンを食べるのが、最近の信次郎の朝食。
 今朝は、それに目玉焼きと簡単なサラダが付いている。
「妊娠したらどうする?」
「どうするって。産むわよ」


「高齢出産になるよ。危ないんじゃ無いか?」
「せっかく授かるのだから、そんなの気にしない。その前に、妊娠するかどうか分からないし」


「俺、嬉しかった。なんか、呪縛が取れたようで」
「呪縛?」


「呪縛という表現は違っているかも知れないけど、とにかく、解放された気分だ」
 和枝は、信次郎の真意を測りかねる。
「和ちゃんも当然覚えているだろ。俺たちの最初の夜を」
 信次郎は当時を回想し述懐する。


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ほら探日記Ⅱー36 初対面 3


 普段の信次郎なら、部屋に入るなりドカッと座り胡座を掻くのだが、今回は母・ユキと彩音との対面がどんな展開になるのか心配で、座る気になれず立ち尽くしたままだった。
 そう、いざとなったら彩音と共に部屋から逃げ去る準備をしていたのだ。


「貴方のお父さん、元気なの?」
 ユキの夫である孝太郎を、貴方のお父さんと呼んだ。キターと、信次郎は思う。
「父はとても元気にしています」
「そう。それは良かったわね。所で、温泉は好きなの?」
「はい。好きです」
 話の展開が保来の想像と違う。保来は不思議に感じた。


「好きならば、暫く此処に泊まっていきなさい」
 彩音は、ユキの真意を測りかねたのか、少し間を置いてハイと返した。


「母さん。それは駄目だよ。彩音は俺の所で働いているんだよ。好き勝手にされては困るよ」
「何言っての。どうせ、あんたの所なんか仕事が無いんでしょ。和ちゃんから聞いてるわよ。忙しいと言うのなら、あんたが先に帰って仕事すれば良いじゃ無い。早く帰りなさい」
 藪蛇というかとばっちりというか。信次郎は何も言い返せなくなってしまった。


 母・ユキの言葉に素直に従う信次郎では無い。それに、彩音は旅館に置いとくとしても、和枝は連れて帰らなければならない。
 予想と違う展開に信次郎は戸惑う。母の考えが掴めない。信次郎は考えるのを止めて、取り敢えず温泉に入ることにした。

 まだ、お客さんがチェックインするまで時間がある。大浴場は清掃され、物が整頓されている。
 旅館の跡取りである信次郎は、本来なら父親の代わりに旅館の主、つまり支配人に収まっていなければならない立場。
 一応、短い期間ではあるが、主になるための修行はしている。その所為か、旅館内の様子に自然に目が向く。


 それはそれとして、矢張り内風呂よりは温泉大浴場の方が身体が温まり、リラックス出来る。生まれて来た時から嗅いできた臭いは、いつ帰って来ても懐かしく感じる。


 隣の女風呂から、エコーの掛かった水音、物音が聞こえて来る。和枝が入っているのだろう。
 少しして、女風呂にもう一人入って来た。声からして彩音である。暫くの間、二人は小声で何やら会話していた。が、何を話しているのか迄は分からない。


 信次郎は浴場から出て脱衣所に移った。
 タオルを捲いたまま、ドライヤーで髪の毛を乾かしたり髭を剃っていると、男風呂に誰かが入って来た。
 タオルを捲いたままの和枝だった。信次郎に近づくと彼の耳元に口を寄せて来た。


「私と彩音ちゃんは此処に残るから。お母さんが彩音ちゃんの様子を見たいんだって」
 小声で語り掛ける。信次郎も釣られて小声になる。
「彩音の何を見たいんだ?」
「旅館経営に興味を持っているかどうかでしょ」


「まさか? 母さんは彩音を自分の後継者にしようなんて企んではいまいな?」
「多分、そうしても良いと思ってる。でも、この事は未だ彩音ちゃんには内緒よ」
「でもさ、なんで和ちゃんも残るのさ?」
「お母さんは、私が彩音ちゃんの面倒をみながら、それとなく探って欲しいって」


「それじゃあ、探偵事務所はどうなる?」
「信ちゃん一人で頑張るか、それとも少しの間、閉めちゃったら。どうせ調査依頼なんて殆ど無いんだから」
 和枝にまでそう言われると身も蓋もない。しかし、今の信次郎は、母の方針には逆らえない。
 何しろ信次郎は母にとって不肖の息子。それを彼自身も承知している。


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